冬の季節「マクル」にサウス・ウエストを訪ね、恋するコクチョウや水流が増す小川を観察
キャロリン・ビーズリーの特集記事
サウス・ウエスト(South West)を流れる川では、コクチョウが歓喜の声を上げ細い首を巧みに曲げながら、生涯のパートナーと愛情を深めています。ヌーンガー族の季節「マクル(Makuru)」は寒く雨の多い時期で、コクチョウのオスとメスが協力しながら懸命に巣作りに励む姿が見られます。嘴で草やヨシを大量に集めて大きく積み上げ、まもなく産まれる卵のために、居心地の良い巣を完成させます。
ハーベイ(Harvey)でツアー会社、ブーラ・ビディ・ドリーミング(Boola Bidi Dreaming)を運営するレスリー・アグル氏(Lesley Ugle)は、コクチョウの繁殖期は大自然が織りなす一年のリズムの一部だと解説してくれました。サウス・ウエストでは、マクルの季節(基本的に6月から7月にあたる時期)に自然の見事な美しさを体感でき、防寒して川やハーベイ・ダム(Harvey Dam)でフィッシングを楽しむのに最適だとアグル氏は語っています。

カージン・ビディ、ブーラ・ビディ・ドリーミング
アグル氏は、現在もマクルの時期にフィッシングを楽しんでいるそうです。「孫やひ孫を連れて、フィッシングに出かけます」と語ってくれました。
マクルの季節には、脂がのったニジマスが格別に美味しい、とアグル氏は語ります。淡水ムール貝も旬で、昔は簡単に採れたそうです。
「幼い頃、川底にビーズのように並ぶ大量のムール貝を見たことを覚えています」とアグル氏は語ってくれました。「小さな淡水ザリガニ(ヌーンガー族の言葉で「ギルジー(gilgie)」)を採りに、川岸へ向かうこともありました。昔、いとこたちと一緒に
よく行きました。」
また、遥か昔には、マクルの季節になると、ビンジャレブ・ヌーンガー族の祖先たちは内陸のダーリング山地(Darling Range)にある高地の洞窟へ移動して寒さを凌いだそうです。
「先祖たちは山の上の洞窟を安全な避寒地として利用し、暖を取り、火で周囲を明るく照らしてマクルを乗り越えていました」と、アグル氏は語ります。「季節が移り気温が上がるのを待って、海辺の地域を目指して下山していました。」

リッジ・ツアー、ブーラ・ビディ・ドリーミング
マクルの季節には頻繁に雨が降るため川の水量が増え、カモが元気に動き回ります。また、降雨はハーベイ地域に自生する草の成長を促すので、カンガルーが肥える様子がよく分かります。ヌーンガー族にとってカンガルーは貴重なタンパク源であると同時に、厳しい寒さを凌ぐための毛皮を得る大切な存在でもありました。マクルは、アグル氏の先祖にとって、カンガルーの毛皮で作るマント(ヌーンガー族の言葉で「ブーカ(booka)」)を準備するための大切な季節でした。
アグル氏によれば、マクルの季節には野焼きの煙とハーブの一種である天然のペパーミント(ヌーンガー族の言葉で「ウォニル(wonil)」)の葉が織りなす独特の香りが、風に乗ってあたり一面に広がります。マクルの時期は森林火災のリスクが低いため、ヌーンガー族の伝統文化である野焼きを行うのに適しています。
「マクルは、川沿いで煙と火を用いた浄化の伝統を実践する季節です」と、アグル氏は語ります。「煙は、植物や水源だけでなく、動物も癒やします。あらゆる生命の繋がりを感じさせてくれます。」
アグル氏とハーベイ・アボリジナル・コーポレーション(Harvey Aboriginal Corporation)のスタッフは、現在でもマクルの寒い時期にハーベイ川沿いと、新たに設けたマイアラップ(Myalup)のスペースで野焼きを実施しています。
「マクルの風物詩でもある寒冷期の野焼きは、100年以上もの長い年月にわたって途絶えていましたが、近年ようやく復活の兆しが見え始めています。まさに、多くの人々が実践できるよう訓練を重ねてきた成果です」と、アグル氏は語ります。

ブーラ・ビディ・ドリーミング
ヌーンガー族の野焼きをはじめとする貴重な文化が、アグル氏の家族による努力を通して存続してきたことは、注目に値します。
「父の話を60年以上も聞いてきました」と語るアグル氏は、マクルの季節が訪れるたびに先祖から受け継いだ知恵をを次世代へ伝えています。
アグル氏のツアーに参加すれば、サウス・ウエストの野山に自生するさまざまな薬草について学べます。その中には、凍える寒さのマクルの季節に特に役立つ植物もあるそうです。
「ヌーンガー族は、マクルに役立つこれらの薬草を「擦り込むもの」と呼んでいます」と、アグル氏は笑いながら教えてくれました。「現代の人々は、風邪を引いたらデンコラブ(Dencorub)やヴィックス(Vicks)、ディープ・ヒート(Deep Heat)など、市販の薬を使っています。一方、ヌーンガー族は、エミューの脂肪にユーカリやシダを混ぜて作った天然の薬を使ってきました。」
アグル氏は、鼻づまりや炎症に効く軟膏の材料として若いユーカリの葉を採取する最適な時期は春ですが、実際に全てを調合するのはマクルの時期であると、説明してくれました。
アグル氏はツアーを数件催行しており、気軽に参加できるオプションとして、所要時間1時間の散策プラン「ヌーンガー・カージン・ビディ(Noongar Knowledge River Path)」があります。このツアーでは、修復されたハーベイ川沿いをゆっくりと歩きながら、ヌーンガー族の6季節をテーマにしたアート作品を鑑賞します。もう一つの「リッジ・ウォーキング・ツアー(Ridge Walking Tour)」では、大量の水を湛えたハーベイ・ダムを見渡しながら、2時間の文化体験を楽しみます。
どちらのツアーに参加しても、サウス・ウエストが誇る豊かな自然の中で、季節の変遷と文化的意義を存分に体感できます。

ブーラ・ビディ・ドリーミング、ブラッド・ヴィターレ氏
(情報:2025年6月現在)