熱帯のウェスト・キンバリーでは季節がすべてをつかさどり、その季節を最もよく知り尽くしているのは、この土地に太古から住みつづけてきた民族のストーリーテラーたちです。


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西オーストラリア州北西部の海沿い、赤茶けた岩稜にヤウル族の男性が誇らしげに立っています。彼の目の前一帯に広がる青々としたマングローブに、古代のピンダンの砂が落ち込んでいきます。彼は乳白色の熱帯の海を見つめます。おそらく彼の先祖も同じことをしていたでしょう。そして、風が起こした最初のうねりがこちらへ来るのに気づきます。彼は、マルール(Marrul)の季節がもうそこまで来ていることを知っています。

バート・ピグラムは、ブルーム(Broome (Rubibi))生まれ。ここでは、何千年にもわたり季節が人々の暮らしを左右してきました。バートは自身のツアー会社であるナリジア体験ブルーム(Narlijia Experiences Broome)を通じて、ブルームとその先住民のルーツについてのすべてを伝えています。

ブルームのツアーに人々を連れて行くナルリジア・エクスペリエンスのバート・ピグラム

ナリジア体験を運営するバート・ピグラム


ブルームは今、ヤウル族のマルールの季節の真っ只中。マンガラの雨季と涼しい乾季の間に挟まれた、季節の変わり目です。マルールは、3月から4月にかけての時期に重なるのが通常ですが、暦に縛られることはありません。マルールは、自然を通じてヤウル族にその到来を伝えるのです。

「マルールの季節に花を咲かせる樹木は、ガドグル(ブラッドウッド)の木です」とバートは言います。「一面に広がる槍草もだんだん傾き、種も落としはじめます」

「マルールは雨季に続く季節なので、バッタやカエルがたくさん出てきます」とバートは教えてくれます。「トカゲがそこらじゅうで見られます。大好物のカエルやバッタを食べるのです」


人々をマングローブツアーに連れて行くナルリジア・エクスペリエンスのバート・ピグラム

ナリジア体験のマングローブ・ツアーを引率するバート・ピグラム


マルールの季節が来ると、バートは待望のマングローブ発見ツアー(Mangrove Discovery Tour)を再開します。このツアーでは、干潮でこの重要な生態系が顕わになったマングローブをバートが案内します。このマングローブと干潟は、魚や貝、カメ、時にはイリエワニなどの餌場であり、生育場でもあります。

マルールの時期にこのマングローブを訪れれば、たわわに実った木々であふれる、グンドゥルン(Gundurung)と呼ばれる白いマングローブを見ることができるかもしれません。

「ここの小川の川床や浜辺は、この果実でほとんど埋め尽くされてしまいます」とバートは話します。「この果実は、実は毒があるのですが、泥の中に埋めるという、古くからの伝統的な方法で毒抜きをします。だいたい5日かかるでしょうか。ファーストフードとは正反対です」


ブルームのナリジア エクスペリエンス付きマングローブ ツアーで植物を手で摘む写真

ぶナリジア体験で行くマングローブ・ツアー、ブルーム


この時期の伝統的な食べ物として、バートの頭の中に浮かんでいるものがもう1つあります。

「私たちがマルールの季節に一番よくやるのはオオトカゲ狩りです」とバートは言います。「この時期は完璧です。この季節は太ってくる時期で、空気が冷え始めて冬眠に入る前に捕まえるのです」

キンバリーは世界最大の熱帯性潮流がやってくる地域で、マルールの季節と重なる彼岸の頃の大潮の干潮のときには、特別な文化財が姿を現します。潮位が特に低くなるため海岸線では露出する岩が多くなり、恐竜の足跡の化石を見つけるのには絶好のタイミングとなります。

「3本指の獣脚類などの恐竜の足跡は、ジャイアントエミューマンに関連づけられるなど、文化的に非常に大きな意味を持っています」とバートは説明します。「ジャイアントエミューマンは、海岸線に済む民族にとっての創造の聖霊だったのです」



ブルームのガンテオーム・ポイントの崖に座るキンバリー・カルチュラル・エクスペリエンスのロビー・ダン

キンバリー文化体験のロビー・ダン


人が変われば、この季節の変わり目が持つ文化的意味も、自然の目印も若干異なります。ロバート・ダンはニュルニュル族の男性で、ダンピア半島(Dampier Peninsula)西部のビーグル・ベイ(Beagle Bay (Ngariun Burr))生まれ。ブルーム育ちですが、この時期はニュルニュルではイラルブーの季節で、通常は3月から5月までがこの季節に当たるのだと説明します。

ロバートの会社はキンバリー・カルチュラル・アドベンチャーズ(Kimberley Cultural Adventures)で、3月下旬からツアーを再開し、来訪者を案内しながらブルームの歴史、ブッシュ・タッカー、多彩な文化について伝えています。


ロビー・ダンが藪の治療法を披露

ブッシュメディシンについて説明しているロバート・ダン


バートと同じく、ロバートも最初に気づくのは風の変化だと言います。

「風の変化は一夜にして起こるものではありません」とロバートは言います。「実際には、波のように起こります。夕方に2~3時間くらい、冷たい風が吹き抜ける時間帯があるといった感じでしょうか」

そんな兆しには、陸で見られものもあれば、海で見られるものもあります。ロバートによれば、昔の人々は、ワトルズの花が咲くのを見て、内陸の野営地から海岸に下りていく絶好のタイミングを知ったのだそうです。

「スレッドフィンサーモンは脂がのりはじめ、牡蛎はプリプリ、アカエイも太ってくる時期です」と彼は話します。

ロバートが子供の頃、イラルブーと言えば、アカエイを獲るための槍の作り方を習うなど、さまざまな文化的なことを伝えるための、その年の教育が始まる季節でした。

ロバートにとっても重要な意味があり、イラルブーはボアブの季節です。このどっしりと膨れた樹木はキンバリーのシンボル的存在で、クルミのような殻の中に大きな実をつけます。


ギブ川道路のボアブの木

ギブ川道路沿いのボアブの木


「子供の頃を振り返ると、ボアブの実を実際に食べていましたね」と彼は言います。「私たちはあれを『貧乏人の食べ物』と呼んだものです」 その認識は今はあらためられ、ボアブは「スーパーフード」とされています。ロバートは、持続可能な方法で商品化したボアブの実の製品の販売を中心とする事業「ビンダム・マイ」(Bindam Mie)を副業として立ち上げました。

ロバートの指導の下、旬のボアブの実はグルテンフリーの粉に加工され、非常に現代的な用途に使われています。

「3年前からテレビ番組の『マスターシェフ』でも使ってもらっています」とロバートは話します。「プロテイン飲料としてスムージーにしたり、何にでも使うことができますよ」

ツアーで忙しくなるマルール(Marrul/Irralboo)の繁忙期を乗り切るために、ブルームのガイドたちに必要な栄養ドリンクとしても役立つかもしれません。


(情報:2023年3月現在)