フラー・ベインジャーによる特集記事

都心の高層ビルからわずか2kmの所に巨大な原生の公園が保全されている都市を、あなたは世界でいくつ挙げられますか。西オーストラリア州の州都パースでは、無料のバスに5分乗るだけで、原生の野花の香りを嗅ぎながら、鳥のおしゃべりに耳を傾け、太陽の光を強く受けた何十もの異なる緑色に包まれることができます。街中の交通にイライラしたとしても、この世界屈指の規模の都市内公園でオーストラリアならではの荒野に包まれれば、そんなイライラは吹っ飛んでいきます。

キングズ・パーク植物園は、ロンドンのハイド・パークの3倍近い大きさです。ニューヨーク市のセントラル・パークさえ小さく思えてしまうほどの広さです。その中には自然を楽しめる遊歩道が通っており、その多くは手付かずのブッシュ地帯を通っています。曲がりくねったコリンビア・カロフィラの大枝の影の下では、雄々しいバンクシアの下から、ディウリスが顔を覗かせています。ここでは、パース地域原産の約326種類の植物が育っており、高木の樹冠ブリッジを渡りながら3,000km以上離れたキンバーリーから運ばれてきた樹齢760年の堂々たる驚嘆のボアブの木を眺めつつも、オーストラリアのブッシュの真ん中にいるような印象を味わえます。


キングス・パーク (Kings Park)の街のスカイラインを背景にしたパース (Perth)の航空写真

キングズ・パーク植物園


この入場無料の公園は、1890年に公式にオープンして以来、長く守られて存在し続けてきました。この事実からは、パースの人々がアウトドアを大切にしてきたことが窺えます。多くの人々は、出勤前に海で泳いだり、ブッシュウォークをしたり、川でカヤックをしたりします。また、週末になると街の周辺まで出かけて、都心から車でわずか30分の所に広がる断崖、滝、そしてハイキング道の探検にワクワクしながら行く人もいます。観光客がやって来たら、地元の人々は皆、イルカと一緒に泳いだり、コガタペンギンを見たり、カンガルーを見つけたり、笑顔のクオッカと出会ったりといったアクティビティーに誘って案内します。多くの都市とは異なり、パースでは驚くほど簡単に、野生の世界と触れ合えるのです。


クオッカ (Quokka)のロットネスト島 (Rottnest Island)

ロットネスト島のクオッカ

自然豊かな島

すぐそばに島がある州都は、オーストラリアではパースだけです。それどころか、パースにはたくさんの島があります。最も有名なロットネスト島は、A級自然保護区となっています。これは、その自然を積極的に保全するという、重要な区分です。そのような環境で宿泊することで、あらゆる種類の野生動物と出会えます。そして、パースからはフェリーでわずか19kmです。月明かりの時間になると、世界で最も幸せな動物であるクオッカが、目の前の細い道で跳びはねます。クオッカはしばしば、日中に笑顔で自撮りのポーズを取りながらセレブのそばでくつろいでいることもありますが、実際には夜行性なので、夜に出会うのがベストです。

また、夜になると土着のカエルも活動し始めます。島の湿地では、ラノイデア・ムーレイ、ウナリアナガエル、そして体の小さなクリニア・インシグニフェラが合唱し、そこには珍しい渡り鳥もやって来ます。ロットネスト島には一周する遊歩道があり、湖の水系、林、低木の荒野、そして海岸沿いの生態系を巡ることができます。こうした場所では、注意していれば、多様な動植物に出会えます。自分だけで行っても、ロットネスト島のボランティアガイドと行っても、The Hike Collectiveに参加しても、生の環境を体感できます。

ロットネスト島の沿岸地域では、大きなミサゴの巣が見られ、オットセイの群れが珊瑚礁の上に浮かび、回遊するザトウクジラのジャンプも見られます。約20種のサンゴと400種を超える魚が、5つの海浜保護区で保護されています。パーカー・ポイント・スノーケリングコースを進んで、こうした生物についての詳しい情報を海中で読んでみましょう。


パーカー・ポイント (Parker Point)のロットネスト島 (Rottnest Island)に停泊しているボートの航空写真

ロットネスト島のパーカー・ポイント

陸での野性味溢れる体験

カンガルーやコアラなどのオーストラリアの抱きしめたくなるような有袋類は、アウトバックにしか住んでいないわけではありません。どれもパースで見ることができます。毎夕、日没頃に、ヘイリッソン島では街の中心にカンガルーの小さな群れが現れます。島の西側には、忘れ去られたようにフェンスに囲まれたしずく型の自然保護区が広がり、そこには原生の草、アシ、そして木が生い茂っています。そこから車でわずか30分のところにあるパース・ヒルズのジョン・フォレスト国立公園では、より多くの野生のカンガルーがブッシュと野花の間を飛び跳ねていきます。一部はとても人馴れしており、駐車場の酒場周辺でくつろいでいたり、時にはバーの中を跳ねて横切ったりします。

その近くでは、冬の雨が落差40mのレズマーディ滝を流れ落ちます。ダーリング山地の崖を2kmくだる遊歩道から見ることができます。この遊歩道は2つの空中展望台を通り、遠くには都会のビル群を広く見渡せます。野生動物を救出してリハビリし、野生に戻す活動をしているカーラキン・アカオクロオウム保護センターも、パース・ヒルズの別の地域にあります。プライベートツアーを手配すれば、絶滅危惧の土着の鳥たちに出会えます。

街から北に45分ドライブして、板道を辿っていくと、西オーストラリア州で屈指の数のコアラが暮らすヤンチャップ国立公園に到着します。コアラは西オーストラリア州土着の種ではないため、見かけることは稀です。1930年代に最初にコアラの群れがヤンチャップに持ち込まれ、その後地元の人々はコアラとの触れ合いを続けています。そのすぐ近くでは、敷地の緑に繁る草地にたくさんのカンガルーが集まってきて、嬉しそうに草を食んでいます。

コアラは西オーストラリア州土着の種ではなく、数十年前にこの国立公園に持ち込まれました。


ハイキングのジョン・フォレスト国立公園 (John Forrest National Park)

@global_planan がソーシャルメディアで紹介するジョン・フォレスト国立公園

夜の野性味溢れる体験

フサオネズミカンガルーは見かけることが大変稀な種です。小さなカンガルーとクオッカの中間のような姿で、ブラシのような尾を持つこの動物は、近絶滅種であり、夜行性であるため、オーストラリア人でもほとんどの人は見たことがありません。しかし、パースの商業街から20分北東に車を走らせたところにあるウッドランド保護区が生息域となっており、特殊なナイトビジョン用の懐中電灯を使って、保護されている多くのフサオネズミカンガルーを間近で観察できます。耳が短く顔が長く尖ったウサギのようなチャイロコミミバンディクートも、この自然保護区では9月から4月まで実施されているガイド付きのナイトウォークで見ることができます。また、ハリモグラ、ダマヤブワラビー、そしてオーストラリアイシチドリ(脚の長い土着の鳥)も姿を見せてくれます。

街の南では、Djurandi Dreamingのツアーで、野生動物が暮らす淡水湖の浅瀬を懐中電灯を点けて探検してみましょう。先住民ガイドが神話時代の話をしながら、進むごとに野生の動植物に目を光らせます。



水の上での野性味溢れる体験

パースは、スワン川を見渡し、インド洋に接しています。そのため、パースは水と深い関わりのある都市です。パース沖合には世界最長のクジラの回遊ルートが通り、9月から11月までのボートツアーに参加すれば、遊び心いっぱいのザトウクジラのショーが楽しめます。

街から南に約45分車を走らせた所にあるロッキングハムの湾には、野生でありつつも人懐っこいバンドウイルカが集まります。Perth Wildlife Encountersが細心の注意を払って実施しているガイド付きツアーに参加してスノーケリングをすると、バンドウイルカは喜んで横に並んで泳いでくれます。その近くでは、フェリーに5分乗るだけで、ショールウォーター諸島海浜公園の中に浮かぶペンギン島に行けます。レンジャーたちが教育目的の実演で世界最小のペンギンたちに餌をやるのを見たら、遊歩道を歩いて自然を楽しみましょう。

パースに戻ると、白い砂が広がるビーチとガラスのように透き通ったターコイズブルーの海でのパドリングとスノーケリングが待っています。メッタムズ・プールの軟体珊瑚礁に向かえば、渦巻く海草の間を泳ぐ希少なタツノオトシゴのウィーディーシードラゴンに出会えるかもしれません。また、歴史的なOmeo号の難破場所の周辺でスノーケリングしてヒトデを探してみましょう。ここには受賞歴のあるクージー海浜ルートが通っています。

スワン川では、GoGo Active Tourのガイド付きのカヤックツアーで地元の人すら存在を知らない隠れ家のような秘密の崖を見つけてみたり、Perth Waterbike Adventuresで街のイルカの横をペダリングしてみたりしませんか。晴れの空が大きく広がり、空気は綺麗で、どこを見ても自然で溢れています。だからパースでは、野生動物と驚くほど簡単に出会えるのです。